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横浜地方裁判所横須賀支部 昭和48年(ワ)62号 判決 1974年6月17日

原告

丸山孝雄

ほか一名

被告

岸上繁

ほか一名

主文

被告等は連帯して原告丸山孝雄に対し金三七三、六〇〇円、原告仲沢浩祐に対し金五七六、五三〇円及び之等に対する昭和四八年四月一五日より完済に至る迄年五分の割合による金員を夫々支払え。

原告等のその余の請求を何れも棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告等の勝訴部分に限り仮に執行することが出来る。

事実

原告等訴訟代理人は、被告等は連帯して原告丸山孝雄に対し金四六二、五〇〇円、原告仲沢浩祐に対し金七二九、三三〇円及び右各金員に対する訴状送達の翌日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因及び抗弁に対する認否として、

一  交通事故

昭和四五年九月一六日、原告両名は所要のため京都市烏丸通り鞍馬口電停前交差点に於て、「高速タクシー」所属のタクシーに乗り徐行中、右後方より進行して来た被告岸上繁運転の乗用車(8京そ九四六三号)が右タクシーに追突し、原告丸山に頭部打撲、頸部挫傷を、原告仲沢に頸部挫傷を夫々与えたものである。

二  傷害の状況

(一)  原告丸山の場合

受傷後、後頭部痛、頸部前屈疼痛、頸部緊張があり、昭和四五年末頃迄吐気が続いたが、その後も気候不順の時は頭痛、肩こりが再発し、同時に疲労感甚しく、二日位勤務を休まなければ恢復しないと言う状況が継続し、同原告の勤務先である立正大学仏教学部(助教授)における講義にも支障を生ずることが度々あり、昭和四八年に入つてからも頭痛がひどく、東京都台東区桜木町土田病院で診断を受け、脳波検査を受けたりしている。又、本訴提起後も依然として前記症状が継続したため、昭和四八年一〇月頃より電子医療機械及びシンノオル液服用の療法を取入れ、自宅療法をしている。

(二)  原告仲沢の場合

受傷後、頸椎四・五棘突起部痛、頸筋痛著明、右上腕神経圧痛、右上肢橈骨神経域知覚異常、握力低下、右手しびれにより字も書けないと言う病状で、東京都品川区西五反田田谷病院に於て加療を続けたが病状恢復せず、却つて、頸筋緊張痛が増強すると言う悪化の気配もあつたので、昭和四六年春頃より同年末迄東京都大田区六郷伊藤病院にてマツサージ療法に専念した。然し、後遺症状は依然として継続し、岡山市在最上稲荷仏教文化研究所特別員として同所に勤務を開始してからは、岡山県総社市総社一六八藤井整形外科病院に於て頸肩腕症候群の病名のもとで治療を受けたけれども、頸肩部疼痛・頸椎の運動制限、右腕の脱力感等に悩まされ、何よりも重大なことは字を書くことが不自由で、研究論文をまとめるのにも障害を来たしていることである。

三  損害

(一)  原告丸山の場合、請求額金四六二、五〇〇円。

A  物的損害

通院、電話料、証明書料、 計金一万円

被告等との示談のための京都出張二回分、 計金四万円

電子医療機械購入代、 金一〇二、〇〇〇円

イオンクリーム特大三ケ、 計金四、五〇〇円

右医療機械普及所に於ける治療代三回分、 金六、〇〇〇円

B  慰藉料

前記の通りの所謂鞭打症状並びに支障と、更に、漸次悪化して仏教学者としての研究に大きな障害を生ずるのではないかと言う精神的な苦痛に対する慰藉料は金二五万円が相当である。

C  弁護士費用、 金五万円

(二)  原告仲沢の場合、請求額金七二九、三三〇円

A  物的損害

家庭教師休業一ケ月分、 金二五、〇〇〇円

田谷病院未済分、 金四、二五〇円

伊東病院未済分、 金四五、〇〇〇円

通院費、 金二〇、〇八〇円

京都出張旅費(示談のため)、 金四万円

電話料、 金五、〇〇〇円

B  慰藉料

前記の通りの所謂鞭打症状が継続し、仏教学研究学徒としての障害が生じており、従つて、将来に対する不安が極めて大きいので、慰藉料は金五〇万円が相当である。

C  弁護士費用、 金九万円

四  被告等の責任

被告岸上望は、被告岸上繁の父である。被告岸上繁は、事故当時一九歳であり、且つ無収入の大学生で車両購入の経済力がなく、その購入代金は父である被告岸上望が負担するなどして同居の子である被告岸上繁の運転を許容していたのであるから、被告岸上望は管理制禦の責任を負つていだと言うべく、その運転によつて生じた損害につき運行者の責任を果たさなければならない。又、昭和四六年五月一二日、京都に於て原告両名が被告岸上望に面会した際、同原告は、被告岸上繁の事故について謝罪し、今後も親として被告岸上繁と共同して損害賠償の責に任ずることを約し、昭和四七年八月一二日被告岸上繁の母訴外房子上京の際に、右誓約に基き原告両名に対し治療費として金六、六〇〇円を支払つて一部履行をしている。以上の通りであるから、被告等は連帯して本件損害賠償の義務を負わなければならない。

五  よつて、本訴請求に及ぶ。

六  被告岸上繁の一部弁済の抗弁を認めるが、何れも本訴の請求外である。

と陳述し、〔証拠関係略〕を認めると述べた。

被告等訴訟代理人は、原告等の請求を何れも棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁及び抗弁として、

一  請求の原因第一項は、原告等がその主張の交通事故によりその主張のような傷害を負つたことは不知。その余の事実を認める。

二  同第二項は不知

三  同第三項は争う。尚、京都出張旅費については、原告等が京都で開かれた出版社の会合に出席する際、被告岸上望と面会したのであるから、本件の損害とは言えない。

四  同第四項は、被告岸上望が被告岸上繁の父であること、被告岸上繁は事故当時一九歳であり、父と同居していたこと、被告岸上望が昭和四六年五月一二日原告等と面会したこと、訴外房子が昭和四七年八月一二日上京したことを夫々認め、その余を争う。本件事故当時被告岸上繁は自動車部品配達のアルバイトをして収入を得ており、本件事故車も同被告が自己の収入によつて購入したものである。

五  被告岸上繁は次のような弁済をしている。

(一)  原告丸山に対し、治療費金一一、三七二円

(二)  原告仲沢に対し、治療費金二六、〇一〇円、コルセツト代金四、〇五〇円、マツサージ代金一八、六〇〇円。

と陳述した。〔証拠関係略〕

理由

一  請求の原因第一項の内、原告等の受傷の点を除くその余の事実、同第四項の内、被告岸上繁が、被告岸上望の子で、本件事故当時一九歳で父と同居していたこと、被告望が昭和四六年五月一二日原告等と面会したこと、被告繁の母訴外房子が昭和四七年八月一二日上京したこと、及び被告繁の一部弁済の抗弁は、何れも各当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕を綜合すると、原告丸山が本件追突事故により頭部打撲、頸部挫傷の傷害を受け、且つ、受傷後の経過が請求の原因第二項(一)の通りであることが認められ、他に之を覆えすべき証拠は存在しない。又、〔証拠略〕を綜合すると、原告仲沢が本件追突事故により頸部挫傷の傷害を受け、且つ、受傷後の経過が請求の原因第二項(二)の通りであることが認められ、他に之を覆えすべき証拠は存在しない。

三  而して、〔証拠略〕により、被告繁が本件事故車(8京そ九四六三号)の保有者であることが認められ、他に之に牴触する証拠がないので、同被告は原告等に対し、本件追突事故につき自賠法第三条の運行供用者責任を負わねばならない。

四  次に、被告望の責任について検討するに、被告望が被告繁の父で、被告繁が本件事故当時一九歳で父と同居していたことは各当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を綜合すると、被告繁は、本件事故当時小学校教員の父被告望の許より京都産業大学に通学する学生であり、昭和四五年三月頃父と相談の上自動車の運転免許を得、同年七月頃、通学とアルバイトの便宜上、同様に父と相談の末中古車の本件事故車を購入し、代金約金一八万円を父より一時立替を受けた後、アルバイトの収入から一ケ月金一五、〇〇〇円乃至金二五、〇〇〇円宛割賦返済したこと、事故車購入後の維持走行管理費、強制保険及び任意保険の保険料等は、すべて被告繁が自己のアルバイトに因る収入で賄つていたこと、而して、被告望とその妻訴外房子も各自自動車を所有していたので、本件事故車は被告繁の専用に供されていたこと、並びに本件事故車は常時被告望方に保管されていたことが夫々認定される。他に之を左右するに足りる証拠は存在しない。

右の事実によると、被告繁は、父親の被告望と同居する未成年の子であつて、本件事故車の購入に当り、代金の一時立替など資金面で父親の援助を受けた許りか、常時保管場所の供与を受けていたものである以上、被告繁は父親を媒介にして初めて本件事故車を日常使用することが可能になつたものと認むべく、従つてかかる場合、たとえ本件事故車の所有名義が未成年者の子にあつても、父親は、未成年者の車の所有、維持管理、運行に対する指示制禦をなし得る地位にあると考えるべきであるから、被告望は、被告繁と競合的に運行供用者の地位にあると認めるのが相当であり、従つて、被告望は、本件追突事故につき自賠法第三条に因る責任を免かれることが出来ないものと解する。

五  そこで、原告丸山より順次損害額について検討を加えるに、

(一)  〔証拠略〕によると、通院費用、証明書料、電話料として計金一万円を支出したことが認められる。

(二)  〔証拠略〕によると、昭和四六年五月一二日被告等と示談交渉のため京都市に赴き、汽車賃として金一二、一〇〇円、宿泊費一泊分金四、〇〇〇円、計金一六、一〇〇円を支出したことが認められる。

(三)  〔証拠略〕によると、本件受傷による後遺症を治療するため、電子医療機械購入代として、昭和四八年一〇月二日、同年一二月一二日の二回に亘り計金一〇二、〇〇〇円を支出したことが認められる。

(四)  〔証拠略〕によると、昭和四八年一〇月二日患部に塗布するイオンクリーム特大三ケ計金四、五〇〇円を支出したことが認められる。

(五)  〔証拠略〕によると、昭和四八年一〇月二日、昭和四九年二月一三日、同月一五日の三回に亘り計金六、〇〇〇円を電子医療機械普及所に於て治療代として支出したことが認められる。

(六)  而して、右(一)乃至(五)の計金一三八、六〇〇円は、何れも本件事故と相当因果性のある損害に属すると認めるべきである。但し、示談交渉の費用中前認定以外の分は、立証不十分の上に事故との相当因果性が明確でないので、失当として排斥されねばならない。

(七)  受傷の程度、治療経過、後遺障害、その他一切の事情を考慮するとき、慰藉料は金二〇万円をもつて相当と認める。

(八)  弁護士費用は、事件の難易その他一切の事情を考慮し、金三五、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(九)  以上により合計金三七三、六〇〇円が原告丸山の損害額である。

六  次に、原告仲沢の損害額について検討するに、

(一)  〔証拠略〕によると、家庭教師としての得べかりし収入一ケ月分金二五、〇〇〇円を喪失したことが認められる。

(二)  〔証拠略〕によると、東京都品川区西五反田所在の田谷病院に於て治療を受けた治療費計金四、二五〇円が未払であることが認められる。

(三)  〔証拠略〕によると、東京都大田区南六郷所在の伊東療院にてマツサージ療法を受けた治療代計金四五、〇〇〇円が未払であることが認められる。

(四)  〔証拠略〕によると、通院費として計金二〇、〇八〇円以上を支出したことが認められる。

(五)  〔証拠略〕を綜合すると、被告等と示談交渉のため昭和四六年五月一二日とその後更に一回京都市に赴き、汽車賃として金二四、二〇〇円、宿泊費二泊分金八、〇〇〇円、計金三二、二〇〇円を支出したことが認められる。

(六)  而して、右(一)乃至(五)の計金一二六、五三〇円は、何れも本件事故と相当因果性のある損害と認めるべきであるが、示談交渉の費用中前認定以外の分及び電話料は、立証が十分でない上に、事故との相当因果性が明確でないので失当として排斥されねばならない。

(七)  受傷の程度、治療経過、後遺障害、その他一切の事情を考慮するとき、慰藉料は金四〇万円をもつて相当と認める。

(八)  弁護士費用は、事件の難易その他一切の事情を考慮し、金五万円をもつて相当と認める。

(九)  以上により、合計金五七六、五三〇円が原告仲沢の損害額である。

七  〔証拠略〕によると、被告繁の一部弁済は、何れも本訴請求外損の害に充当されたことが認められる。

八  果して然らば、被告等は連帯して、原告丸山に対し金三七三、六〇〇円、原告仲沢に対し金五七六、五三〇円、及び之等に対する本訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和四八年四月一五日以降完済迄、民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。よつて、本訴請求を右の範囲に於て正当として認容し、その余を何れも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 石垣光雄)

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